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2024/03/29 21:58 |
お店屋さん2
色々考えておりますが、拍手の御礼はこのお店屋さんシリーズで五個ぐらい書いてみようかな、って思っております。拍手の御礼なんだから、あんまり長い文章でも逆に迷惑になるだろうと短文にしようと思って、いたのに、書けば書くだけ長くなるという不思議現象です。抑えろ、抑えるんだ私。自分が思うままに短い文章、長い文章と書き分けが出来ればよいのですが…。
で、前にここでアップさせて頂いた一話目?の続きのお話を参考までにまた置いておきます。早く五個分、書かねばっ




町の真正面にある目立つ黄色い壁の店、「お店屋さん」。今日も今日とてがらんと広い部屋の中、にこにこと笑いながらお店屋さんはカウンターの向こう側でお客を待っていた。
そこにバタンと音を立てて扉を開き中へ入ってきたのは、一人の女性であった。どこか怒り顔のその女性を見て、お店屋さんはおやと声を上げた。見覚えのある顔だった。

「いらっしゃいませ、ようこそお店屋へ」
「知ってるわ!」
「ええ、先日お越しになられた方ですね。もちろん覚えておりますよ」

にこにこと笑顔を絶やさずに応対するお店屋さんとは対照的に、女性はとても不快そうに顔が歪んでいた。前見た時とほとんど変わらない殺風景な部屋をぐるりと見回し、お店屋さんに鼻で笑ってみせる。

「覚えてる?そう!自分がカモにした馬鹿な客の事を覚えているの!お店屋さんだなんて興味深い看板掲げておいて、この町の店の場所をただ案内するだけで金をせしめる卑怯な店でも!」
「来店して頂いたお客さんの顔を覚える事は、店主としてとても大事な事ですから」
「そうね!あんたなんかにコロッと騙されるような客、カモとしてちょうど良いですものね!ええ、そうでしょうとも!」

次々と嫌味を飛ばしてくる女性にしかし、お店屋さんは変わらない笑顔を向け続けるだけであった。何を言っても表情を崩さないお店屋さんを女性はしばらく睨みつけていたが、やがて諦めて視線を逸らした。きっと何をどんな風に言っても、お店屋さんの顔色を変える事は出来ないのだろうと悟ったのだ。

「言っておくけど、私は今日こそはあんたに騙されないから。今ここに入ってきたのだって、ただ文句を言いに来ただけなのよ」
「そうでしたか」
「そうよ!あんたなんかにビタ一文払う気なんてないから!それとも何?この店への入店料が必要だとでも言うつもり?!」
「いえいえ、決してそのような事はありません。私がお客さんからお金を頂くのは、私がお客さんにお店を売った時だけですよ。何せ私は、「お店屋さん」ですから」

事も無げにそう言ったお店屋さんに、女性は悔しそうにぎりぎりと歯を食いしばる。握り拳をぎゅっと握った女性であったが、それをどこかに振り下ろす事無く、くるりと振り返ってさっき入ってきた扉へと向かう。そこから外へと出る直前、お店屋さんを一度だけ振り返った。

「こんな店、もう二度と来ないわよ!」

そうやって吐き捨て、女性は扉をものすごい勢いで閉めてお店から出て言った。誰もいなくなった店内で、お店屋さんは丁寧にお辞儀をしてみせる。

「はい、またのお越しをお待ちしております」

その後しばらく、店内はとても静かだった。お店屋さんは特に何もする事無く、その場で背筋を伸ばしてにこにこと立っているだけだった。まるで、今から誰かがまた来店する事を知っているかのような、準備万端な姿勢であった。
お店の扉が最後に閉められてから数十分が経っただろうか。にこにこ笑顔のお店屋さんの目の前で、扉が音を立てずにゆっくりと少しだけ開かれた。お店屋さんはその扉の隙間に向かって、にこやかに声を上げる。

「いらっしゃいませ、ようこそお店屋へ」

そんなお店屋さんを扉の向こう側から黙って見つめていたのは、さっき勢いよく出ていった女性だった。どこか罰が悪そうに、悔しそうに見つめてくるその視線に、お店屋さんは変わらない笑顔を向ける。

「当店はこの入り組んだ町の全てを熟知しております、どこにどんなお店があるのか、尋ねて頂ければすぐにお売り出来ますよ。私もこの町に住んで長いものですからね。この町に店舗を構える色んな店の店主でさえたまに迷ってしまうほどの迷宮であるこの町の事を、是非お尋ね下さい」

女性は少しの間躊躇うようにじっと扉の隙間からお店屋さんの事を窺っていたが、やがてゆっくりと、店の中に入ってくる。そうしてカウンターの目の前まで歩いてきた女性は、沈んだ顔で手に握りしめていたお金をお店屋さんに突き出し、絞り出すように言った。

「……宝石屋さんがどこにあるか、教えてください……」

少し入りこんだだけで一体自分がどこを歩いているのか分からなくなるほどの町の中で散々迷った様子の女性に、お店屋さんはにっこり笑顔で答えた。

「はい、毎度!」
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2011/05/30 00:24 | Comments(0) |

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