今日は由来は知りませんが「空を見る日」らしいですね。
それを目にして思いついたくだらないお話。
翔太と死神の空を見る日↓
それを目にして思いついたくだらないお話。
翔太と死神の空を見る日↓
死神は不思議に思った。普段からそれなりに空が好きだと翔太は言っていたが、今みたいに頭上をぼーっと見上げている事はそんなに無いからだ。
「何をしているんだい?」
「空を見ていたんだ。今日は空を見る日らしいから」
「空を見る日?」
「僕も由来は知らないんだけど、そうらしいんだ。だからせっかくだから空を見ようと思ってさ」
「なるほど」
死神も翔太にならって空を見上げる。今日は気持ちよく晴れた青い空が広がっていた。真夏の時ほど鮮明な青ではなく、真冬の時ほど遠く淡い青でもない、切れ切れに白い雲が浮かぶ秋の空であった。そんな空を眺めていると、ふいに翔太が口を開いた。
「でもさ、僕は思うんだ」
「何をだい?」
「わざわざ空を見る日なんて作らなくても、空はいつも真上にあるんだから、外にさえ出れば嫌でも見ちゃうと思うんだ。毎日見ているものを、一年に一度の記念日みたいにする意味ってあるのかな」
「ふむ、君の言いたい事は良く分かった」
死神が頷いてから、無言の時間が数秒。おもむろに死神が翔太へ話しかけてくる。
「ところで翔太」
「何?」
「ぼくが普段、この鎌を右手から左手に、または左手から右手に持ちかえる瞬間を見た事があるかい?」
「えっ?!」
驚いた翔太は視線を空から死神へと移していた。初耳だった。
「死神、持ちかえてたの?」
「そうだよ、たまにね。だって片手ばかり使っていたら疲れるだろう?」
「あ、やっぱり疲れるんだ……」
「しかし君は、ぼくとほぼ毎日会っているというのに、それを見た事が無かったのかな」
「うっ……」
何故だか責められている気分になって、翔太は言葉を詰まらせる。死神は少ししょげる翔太を見て、にこりと笑った。
「翔太、もし今日が空を見る日では無く、死神を見る日だったとしたら、どうする?」
「は?」
「君の目の前に四六時中存在する死神を見る日だ。さあ、どうする?」
「えー……そりゃ一応、死神を見てみるよ」
翔太が答えると、死神はその視線の中、軽々と鎌を持ち上げた。そして今まで右手で持っていたそれを、自然な動作で左手に持ちかえる。あっと思わず翔太は声を出していた。
「持ちかえた!」
「見たかい?」
「見たよ」
「よかったね、今日が死神を見る日だったから、君は今の瞬間を見る事が出来たんだよ」
よかったかどうかはさておき、翔太は死神の言いたい事が分かった。何となく目の中に映している景色と、意識して眺めてみる景色、なるほど見方が違うだけで頭の中に入ってくる情報量はこんなにも違うのだ。納得するように頷いてから、もう一度空を見る。
「毎日見ているようで、きっと見ていないんだなあ」
「そういうものさ」
「空を見る日って、やっぱり必要なのかもしれないね」
自分は今まで、どれだけの空を見逃してきたのだろう。
「見よう」と思って見上げた空は、いつもと違う青の色をしている気がした。
「ところで翔太、死神を見る日も同じように必要だと思わないかな」
「それはいらない」
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